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東京地方裁判所 昭和61年(特わ)2734号 判決 1988年3月29日

本店所在地

東京都豊島区東池袋四丁目二七番五号

株式会社

恭和企業

(右代表者代表取締役二木恭男)

本店

東京都江戸川区松島四丁目九五一番地

住居

同豊島区高松二丁目四二番地

会社役員

二木恭男

昭和一三年四月一八日生

右の者らに対する法人税法違反、宅地建物取引業法違反被告事件について、当裁判所は、審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社恭和企業を罰金九〇〇〇万円に、被告人二木恭男を懲役一年六月にそれぞれ処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社恭和企業(以下被告会社という。)は、東京都豊島区東池袋四丁目二七番五号に本店を置き、健康機械器具の販売等を目的とする資本金六〇〇万円の株式会社であり、被告人二木恭男(以下被告人二木または単に被告人という)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人二木は、被告会社の業務に関し

第一  法人税を免れようと企て、昭和六〇年三月一日から同六一年二月二八日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九億七二三一万六八七二円で(別紙1修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が九億八一一八万四〇〇〇円であった(別紙2ほ脱税額計算書参照)にもかかわらず、東大興産株式会社〔以下、東大興産という。(代表取締役織田晴行)〕に対して売り渡した同都新宿区歌舞伎町一丁目一五番二〇・同番二一の宅地二筆合計二一八・五一平方メートルの譲渡価格二六億四三九六万円(三・三平方メートル当たり四〇〇〇万円)を一九億八〇〇〇万円(三・三平方メートル当たり三〇〇〇万円)に圧縮し、また、架空経費を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、同年四月三〇日、同豊島区西池袋三丁目三三番二二号所在の所轄豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二億六七一二万五二二一円で、課税土地譲渡利益金額が二億六六九一万四〇〇〇円であり、これに対する法人税額が一億六八〇六万三九〇〇円である旨の虚偽の法人確定申告書(昭和六一年押第一三七四号符号1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額六億一六二六万五六〇〇円と右申告税額との差額四億四八二〇万一七〇〇円(別紙2ほ脱税額計算書参照)を免れた

第二  法定の免許を受けないで、業として、別紙3売買一覧表記載のとおり、昭和六〇年五月一六日ころから同年一〇月二一日ころまでの間、前後三回にわたり、同都豊島区東池袋三丁目一番一号所在の株式会社オリエントファイナンスにおいて君山トシほか二名から同表種別欄記載の宅地四筆及び建物二棟を代金合計一七億五四六〇万円で買い受けたうえ、同年一二月二一日ころ及び昭和六一年三月三日ころの二回にわたり、同都港区南青山一丁目二六番一三号所在の東大興産ほか一か所において、同会社に対し、右宅地四筆を代金合計三七億七八六〇万円で売り渡し、もって、宅地建物取引業を営んだ

ものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人二木の当公判廷における供述

一  第一回及び第二回公判調書中の被告人二木の各供述部分

一  被告人二木の検察官に対する供述調書一七通

一  証人印出勉、同楢原功、同織田晴行の当公判廷における各供述

一  織田晴行(四通)、佐藤幸子(二通)、君山トシ(二通)、志村悦雄、安藤和夫(二通)、中本常一、高尾信一、佐藤忠見(二通)、鯉沼明男(四通)、清水保夫、戸部久(二通)、北本巌(二通)、藤村賢、坂田恒男、藤田英治こと文徳厦、永田恒雄〔三通―昭和61・11・12付、同年11・14付、同年11・15付(五枚綴りのもの)〕、兵頭隆〔九通―同年11・8付、同年11・9付、同年11・10付(二通)、同年11・11付(二通)、同年11・14付(三枚綴りのもの)、同年11・15付(二通)〕、山下修身(二通)、帆前雅美(三通)、天野茂雄、須賀敏行、多久島耕治、大竹良英、根岸茂、新井栄廣、吉岡隆一、佐野泰雄、馬場忠広、野村弘毅、岡本登志晃、大門理八、小松崎潔(三通)、久野千重子(二通)、高橋敬子(四通)、宇留島和子(二通)、木船孝司(二通)、印出勉(六通)の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の左記の調査書

1  土地売上高調査書

2  仕入高調査書

3  期末商品棚卸高調査書

4  接待交際費調査書

5  交際費損金不算入額調査書

6  租税公課調査書

7  雑費調査書

8  支払利息割引料調査書

9  繰越欠損金当期控除額調査書

10  土地譲渡税額調査書

一  登記官戸田一晴作成の登記簿謄本五通

一  登記官野口東作成の商業登記簿謄本一通

一  押収してある法人税確定申告書((株)恭和企業、60・3・1~61・2・28)一袋(昭和六一年押第一三七四号符号1)

判示第二の事実につき

一  水田恒雄(昭和61・11・15付―但し四枚綴りのもの)、兵頭隆(同年11・14付―但し五枚綴りのもの)の検察官に対する各供述調書

一  東京都住宅局民間住宅部不動産業指導課田中寿嗣作成の捜査関係事項照会回答書(61住民指第五四号とあるもの)

(法例の適用)

被告会社の判示第一の所為は、法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するところ、情状により同法一五九条二項を適用し、同第二の所為は、包括して宅地建物取引業法七九条二号、一二条一項、八四条に該当するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により各罪につき定めた罰金の合算額の範囲内において被告会社を罰金九〇〇〇万円に処する。

被告人二木の判示第一の所為は、法人税法一五九条一項に、同第二の所為は、包括して宅地建物取引業法七九条二号、一二条一項、八四条に該当するところ、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人二木を懲役一年六月に処することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していた被告人二木が、被告会社の業務に関し、同社が東大興産に新宿区歌舞伎町一丁目一五番二〇及び二一の宅地二筆を合計二六億四三九六万円で譲渡しながら、これを一九億八〇〇〇万円で譲渡したように装って売上を除外し、架空仕入れを計上するなどして所得を秘匿し、被告会社の昭和六一年二月期の法人税四億四八二〇万一七〇〇円を免れ、また、法定の免許を受けないまま業として前後五回にわたり前記新宿区歌舞伎町一丁目一五番二〇および二一の宅地二筆などを宅地四筆、建物二棟を君山トシほか二名から譲り受けてこれらのうち宅地のみを東大興産に売り渡し、もって宅地建物取引業を営んだという事案であるが、本件法人税法違反事件にあっては、ほ脱税額が右のごとく巨額であり、税ほ脱率も七二パーセント余にのぼる高率であって右各数値のみをもってしても重大事犯というべきである。ところで、被告人は、かねて倒産会社を譲り受け、その商号を株式会社恭和企業と変更し、自ら代表取締役に就任して羽毛布団等の訪問販売をしていたが、その商法がマスコミ等で批判され、売上が落ち込んだため、被告会社において、いわゆる土地ブームを見込んで法定の免許を受けないまま不動産業を始めたものであるところ、昭和六〇年四月下旬ころ、不動産ブローカーらから新宿区歌舞伎町一丁目一五番二一の土地の購入方を勧められるとともに、その隣接及び周辺地域の地上げが可能である旨聞かされ、将来歓楽街が健全化する方向に進めば地上げした土地を転売することにより多大の利益を得ることができると考え、同年五月、株式会社オリエントファイナンスから一三億円の融資(期間六か月・利息九・五%)を得て右歌舞伎町一丁目一五番二一及び一五番二〇の土地(以下本件土地という。)を買入れ、同年九月には、成和地所建物株式会社及びその取引先である株式会社信栄に対して本件不動産の買入方や資金融資方の折衝を重ね、結局被告会社が本件土地を担保(形式は成和地所らに対する売買)に右信栄から一六億円の融資を得て前記オリエントファイナンスからの借入金を返済し(被告人は右成和地所建物の代表取締役清水保夫から近隣の一五番六・七・八の土地を優先して地上げすることを条件付けられる状況であった。)、同年一〇月には、オリエントファイナンスから九億五〇〇〇万円の融資を得て(期間三か月間・利息年一〇%)本件土地の隣接を隔てた同町一丁目一五番四・二五の土地・建物を八億四九六〇万円で買収するなどした。その間被告人らは、不動産業者らを介して試みた本件土地の隣接地や表通りに面した土地の地上げはなかなか進展せず、被告人らにとって金利の支払いも軽視できない状況となっていたところ、被告人は、不動産ブローカーの水田恒雄、兵頭隆等の紹介により東大興産株式会社の代表取締役織田晴行と知り合い同人らとの間で同町一丁目一五番一帯の土地を被告会社が順次地上げしてこれを東大興産に納入し、その一帯が最終的に大手ユーザーに高額な価格で転売できたときには被告会社においても利益配分にあずかれる旨プロジェクト協定所を取り交わし、昭和六〇年一二月二一日、被告会社が東大興産に本件土地を代金二六億四三九六万円(三・三平方メートル当たり四〇〇〇万円)で売却する旨の売買契約を締結し(右プロジェクト協定の存在が本件土地売買の成立を否定するものでないことは多言を要しない。)、同日手付金として小切手で五億円を受領し、その際被告人は、右織田の申し入れにより、そのうち二億円を同人に貸し付け、これに伴い被告会社は、前記成和地所建物、被告会社信栄との契約を解除し、昭和六一年二月二五日、東大興産が本件土地を株式会社東宅建設に転売した代金のうちから、本件土地売買の中間金として一八億一三九五万円及び前記貸付金二億円の支払を受けたものであり、かかる本件土地の購入・転売を通じ被告会社は、支払手数料・登記料など仕入原価を構成する五八〇〇万円余の簿外支出を考慮しても短期間のうちに多額の利益を得ていたものであり、地価高騰が社会問題化し、地上げ屋の暗躍が世上の論議を呼ぶ今日の情勢に照らすと、被告会社らが企画した地域開発計画なるものも特に社会的に有益であったとはいえず、本件脱税行為はさらに本件土地周辺の土地を地上げし、多大の利益を得ようとした被告人らが、その資金を確保すべく敢行したもので、その犯行の動機に特段酌むべきところはなく、また、被告人らは、本件土地の売却代金につき、三・三平方メートル当たり一〇〇〇万円分を除外して三・三平方メートル当たり三〇〇〇万円で売却したように装ったのみならず、架空の仕入高を計上して虚偽過少の法人税確定申告書を所轄税務署長宛に提出し、さらに税務調査に備えて部下に右申告に沿った内容虚偽の売買契約書を作成させるなどして本件犯行の発覚を妨げようとしていたものであり、また、被告人は、業として不動産取引を行うには法定の免許を得なければならないことを知悉しながら、昭和六〇年以降不動産取引業に専念し、地上げに取り組んできたものであって、その各犯行の態様は大胆かつ悪質であり、加えて、被告人は、所轄税務署長から法人税の納付方を督促されるや、更に架空経費の計上洩れがあったとして虚偽の更正請求をするなど法無視の態度が顕著であること、被告人らは、今日に至るまで、当該事業年度の法人税本税のうち二千数百万円を納入したのみであることや本件事案の性質などを総合勘案すると犯情は悪質であり、被告人らの刑責は重いといわざるを得ない。

確かに、被告会社においては、東大興産から受領すべき本件土地の売買残代金三億三〇〇〇万円の支払いを未だ受けておらず、将来的にもその回収は困難であり、このことは、東大興産側の言い分はともかく被告人及び被告会社にとって大きな痛手を被ったものとして同情すべきところがあり、しかも、右売上未収金が売上除外の半額を占めており、かかる未収金を被告会社の所得から除外しようとの気持ちを抱いた点については、心情的には理解しえないものではないこと、また、本件土地周辺一帯の地上げが完了していない状況下においては、本件土地等の売買は被告人及び被告会社にしてみると結局東大興産や不動産ブローカーらの資金作り等に利用されたとの受け止め方をせざるを得ないような結果となっており、かかる事態を招来させるに至ったのは被告人及び被告会社の本件土地を含む歌舞伎町一丁目一五番周辺の地上げ事業に対する取組姿勢の結果であるとして何ら同情するに値しないと断定するのはいささか酷であること、被告人は、自宅を売却したり被告人が経営する株式会社恭伸所有の不動産を処分する他、現在準備中の千葉県下の土地の山砂採取によって見込まれる収入や被告会社の齋尾勝彦に対する一八〇〇万円の貸金の返済金等をもって本件ほ脱にかかる被告会社の法人税本税等を納付する旨供述して反省の態度を示していること、被告人には過去私文書偽造・同行使、詐欺、業務上横領の罪により懲役刑(執行猶予付)に処せられた前科があるが、それは昭和四二年当時のもので、その後は特に前科や犯歴はないこと、及び被告人らの家庭事情等被告人及び被告会社にとって有利な又は同情すべき事情も認められる。

しかしながら、前記被告人及び被告会社の刑責の重大性に鑑みると、本件は、被告人に対し刑の執行を猶予すべき事案とは認められず、右被告人及び被告会社のために酌むべき諸事情は、被告会社の罰金額及び被告人に対する刑期の点で考慮するのが相当であると思料され、叙上の諸事情を総合勘案して、主文のとおり各刑を量定した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑被告会社につき罰金一億二〇〇〇万円、被告人二木につき懲役二年)

検察官井上經敏、弁護人早川晴雄各出席

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 中野久利 裁判官 鈴木浩美)

別紙1 修正損益計算書

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